これを始めた頃は、まさにわが国が高度経済成長期の真っ直中で、ほとんどの国民が「日本はこれから良くなっていくこと間違いなし」と考えていた時代でした。
PAOSという事務所をオープンして間もない頃、早稲田大学美術専修の先輩であり、デザイン研究会の先輩でもあった大日本印刷大阪支社の時津勝造さんから、日本板硝子株式会社のPR誌『SPACE MODULATER』の企画を、2年間引き受けて欲しいとの依頼を受けました。
同誌は、一級建築士事務所や大学の建築科研究室などを主ターゲットとする専門誌でしたが、その中の企画の一本として起案したのが「日本で最も変化していく場所の定点撮影」でした。
対象とする場所は、まさにわが国経済成長の象徴になる地域でしたから、いくつかの候補地を編集委員の皆さまと共に考え、最後に3カ所に候補をしぼりました。
東京湾／多摩ニュータウン／西新宿がそれですが、東京湾は広すぎてカメラに収まりきらない、当時の多摩ニュータウンはただの野原(今は典型的な老人の街)でカメラの設置場所がない。それに対して西新宿は、超高層ビルが群れなして出来る予定の、元淀橋浄水場跡を中心とするだだっ広い原っぱ、しかも、国鉄(後にJR)新宿駅を遠方に臨む好適の場所に、当時では珍しい12階建てのマンションが有り、その屋上にあたる13階からの眺望が丁度良い。この場所を見つけ、画角を決めてくれたのが初代の写真家：山田脩二さんです。因みに山田脩二さんと私は桑沢デザイン研究所時代の同級生で、最初に暗室に入ったのも一緒だったという親友です。43年もの永きにわたって定点撮影が続けられた理由の一つに、彼が最初に決めてくれた撮影場所と、切り取った画角の的確さに負うところ大です。

その頃まで、わが国の建築基準法では、明治時代に施行された高さ制限が百尺(約31ｍ)で、この地震国では海外の国々のような超高層の建物の存在など夢にも描けなかった時代でした。それが、コンピューター時代に入ったのと、わが国独自の建築工法が開発されたことで、遂に霞ヶ関ビル、貿易センタービルの２つの超高層ビルが具現化し、続いて西新宿に次々と超高層ビルが建ち始める、まさに建設技術的にも都市開発的にも、画期的な夜明けの時と言えました。
そのタイミングの良さと場所に目をつけ、以来、クオータリー(年４回刊行)のPR誌に、約２年にわたり８カットずつの定点撮影写真を掲載したのでした。最初に建った西新宿の超高層建築が京王プラザホテルです。当初、その屹立するインパクトは実に印象的でした。
その後、PR誌の企画そのものはいつも追い立てられているようで私の性に合わないというか、大変なので、2年限りでお断りしてしまったのですが、定点撮影の方は「これはひょっとすると貴重な記録になるかも知れない？」と考え、以来変化の状況に応じながら年々歳々撮り続けたら、遂に43年余に及ぶ世界的なドキュメントになったというのが現況なのです。

このたびは、ＮＨＫ総合放送の日曜(4月7日)朝８時の「小さな旅」という長寿番組で取り上げられることになった次第です。（一部地域は別日程）
現場でのインタビュー当日は、風の強い悪条件の中、屋上での取材でしたのでどの程度の紹介になるか分かりませんが、全国放送とのことですので、どなたでもご覧頂けます。
よろしければどうぞご覧下さい。

と書き発信を終えたところでNHKの方から次のようなご連絡がありました。
時間の迫っている中、ややこしい話で申し訳ありません。

肝心なことをお伝えするのを忘れておりました。
放送内容の詳細は以下の通りです。

小さな旅　「 仰ぎ見た夢 〜東京 西新宿〜 」
４月７日（日） 午前8：00〜8：25
NHK総合テレビ　全国放送
（北海道・近畿・九州・静岡以外の中部・鳥取・徳島・香川を除く）

４月11日（木） 午前11：05〜11：30
NHK総合テレビ 全国放送
（関東・東北を除く）

４月13日（土） 午前5：15〜5：40
NHK総合テレビ 全国放送
（広島を除く）

よろしくお願いいたします。

なおついでに申し上げておきますと、このアーカイビングは素晴らしい記録番組を制作することで有名なイギリスＢＢＣ放送の「Supersized Earth」（人類は地表をどう変えてきたか？）という番組のタイトルバックでも使われました。ＢＢＣは、大変力を入れて制作したこの番組を10年位の年月を掛け、世界の主だった先進国に販売し放映もされる予定だそうですから、やがて日本でも見ていただける日がこようかと思います。