中西元男 実験人生
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日中漢字新時代、《 PAOS書体 》の開発 1

2009 / 7 / 1

かなり長文になりそうですので、2回に分けて書きたいと考えます。
でも大層重要なテーマですのでじっくりお読み下さい。

日本漢字と中国漢字(簡体字)

「楽」という字の相互比較


「骨」という字の相互比較

これらは同じ漢字ですが、日中間漢字問題の顕著な事例です。

両国間におけるビジネス上・個人間の交流が頻繁になるに従って、漢字文化圏の国同士であるが故に起こる面倒な問題をいくつも見聞きしてきました。
「手紙=トイレットペーパー」であるとか、「全日空=毎日空っぽ」はともかく、キリンの「一番絞り=部下を絞り上げる嫌な上司のイメージ」に至っては、日本では美味しい良い味のイメージの筈が、全く別の意味になってしまう訳ですから、漢字民族同士であるために、逆に困った問題が生じるとも言えるでしょう。

私が中国から招かれて初めて公式訪問として北京を訪れたのは、1993年の春のことです。
その時は、当時中国で最高のデザイン学校と言われた中央工芸美術学院(現在の清華大学 美術学院=デザイン学部)で、10日間の特別講義を行うためでした。この時をきっかけに、これまでに約80回ほど彼の国を訪問したことになります。

もちろんこの間の中国の発展振りは、16年前の想像をはるかに越えるものです。
しかし、ビジネス上での漢字の扱いについては、多くの難問を経験してきました。それは軸立てをしてみると次のようなことです。
1. 日中の標準漢字の差異(例えば日本人には簡体字(中国の標準書体)が読めない。解せない。)
2. 同じ漢字でも、日中間では発音が異なる。
3. 文字作りの基本(同じ字でも、画数や構造やバランス、習慣上の意味等)が異なる。
4. 既存汎用書体にデザイン上の差異がある。(たとえば中国漢字は筆文字の特長を多く残す)
5. 中国では既成書体といえども、日本のように企業が広告のヘッドラインなどには無料では使用できない。
等です。

ところが近年日中間のビジネス交流はますます増し、相互コミュニケーションが拡大する中で、漢字互換使用への要求がその必然性を増してきています。しかしながら、ここにはいくつかの解決課題が横たわっているのは述べてきている通りです。
もしこれらの障壁が解決できて日中漢字の互換性が実現すれば、その成果をパソコンやプリンタに取り込み、共用化できます。そして、日中どちら側からでも両国共通の漢字の常用が可能となれば、それは一体どれほど便利だろうかと何度考えてきたことでしょう。
加えてその成果は、日中間ひいては漢字文化圏のビジネスや日常コミュニケーション上の意思疎通に計り知れないほど大きなメリットをもたらし、その利便性は莫大と考え続けてきたのです。
そこで私たちは、上記の諸問題を解決するために、「PAOS書体とそれに付帯する造形的・システム的開発」に取り組んでみようと考えました。

これまでの日中ビジネス交流を経て培ったPAOSのノウハウや経験に基づき、また専門家にも多く加わっていただき、日中共用漢字の実用化へ向けて、これまで実用化が実現しなかった原因の究明や、日中間のコミュニケーション上・ビジネス上の現状課題の整理・分析から始め、研究を重ね、独自の解決方法を導き出す努力を重ねてきました。
その結果、2年という年月を費やして、このたびようやく日中共通の漢字(日本漢字第一水準と中国常用漢字および記号類など合計6345字)の書体開発が進み、実用化の目途が立ちました。(第二〜第四水準はほとんどが旧漢字ですので、現行のままでも日中共用がほぼ可能)

おりしも2008年度は、私(中西)が中国に初めて招かれてから15周年、PAOS自体も設立40周年に当たる節目でしたので、この年を目標に、上記課題解決にPAOS東京とPAOS上海(代表:王超鷹)の間で日中共用漢字「PAOS書体」開発へのチャレンジを始めたのでした。予想以上に時間がかかってしまいましたが、この成果は、われわれ実務屋PAOSならではの日中文化事業としての成果といえるものであろうかと思います。
日中間でのビジネス経験をお持ちにならない方々には不明点も多いかとは思いますが、もう少しここに至る問題点とプロセスを詳述して参りましょう。


第1の問題
≪企画の背景:きっかけはクライアントの実務から≫

中国では、商標登録するブランドに必ず簡体字(中国標準漢字)表記(もしくは併記)をしなくてはなりません。しかも、既成書体をそのまま使用するのではなく独自ロゴタイプの作成が必要とされます。
PAOSでは、日産自動車のカルロス・ゴーン氏のパワーブランド戦略指針を受け、2000年代初頭に日米欧共通のVI(Visual Identity)デザインシステムと管理システムの開発を行いました。
その後、日産自動車は中国にもビジネス進出することになり、これまでのVIスタイルに準拠した上での中国漢字ブランドへのデザイン対応の依頼を受けました。ところが中国にはマニュアル制定時に指定した日本漢字と違和感なくマッチする書体が存在せず、近似の書体で並べてみても、日中間では文字のバランスや基本的な文字の組み立て等のデザインが異なるため、結果的に、その都度新たに文字を調整開発し、既定の日産スタイルに合わせながら、日中間のイメージ統一が可能となるよう図ったのでした。


日産用社名ロゴ開発

また、森ビルが中国一の高さを誇る「上海環球金融中心」を建設した際には、森ビルの社名ロゴタイプに制定していた日本の書体と似通った中国の書体を選び、2つの書体を融和させしながら、日本人・中国人のどちらが見ても、表現上違和感を感じないロゴタイプを開発し対応しようとしたりもしました。さらに、上海環球金融中心内のサイン等に使用される主要な施設名についても、同様にロゴタイプを開発する試みを致しました。


森ビル「上海環球金融中心」 東京-上海間でのロゴの精緻化プロセス

このように、日中間でビジネスを行う企業のVIS(Visual Identity System)の遂行に当たっては、現状では統一イメージを保つために個別対応でのロゴタイプ開発が必要とされるのです。また、日中両国で共用可能なデザイン書体が存在しないために、制作物等で使用する専用書体が異なり企業イメージの統一が図れない、等の問題も生じています。
これは、日本と中国の既存書体は、同じ文字でもバランスやサイズ、レターフェイス(字面枠)など、字形において基本的に微妙な感覚上の違いがあり、デザイン面での共通性に欠けることが多いからなのです。とりわけ、広告・販促関連の制作物でのロゴやコピーにおいて、字体の統一が計れないために生ずるブランド戦略・イメージ戦略上の不具合は、非常に大きな問題となっていました。




デザイン上の違いの例


(つづく)


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投稿者 Nakanishi : 2009年07月01日 22:00