中西元男 実験人生
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COMMENT

« 劇的な週末メイン父が逝った »

アーカイビングの価値を発揮し始めた
「World Good Designアーカイブス」

2008 / 6 /20


「World Good Designアーカイブス」が間もなく全10巻を数えるまでに成長し、最近ではじわじわとその資料的価値が認められる存在になって参りました。嬉しいことです。

私は1998年からグッドデザイン賞(Gマーク)の審査委員長の任に就いたのですが、3年間の在任中に「世界中には、わが国のGマークをはじめ数々の優れたグッドデザイン表彰制度があるにも関わらず、これらの賞情報の網羅一元化がどこにおいても成されていない」ということに気づき、それは実に不便かつ不思議との思いを持ちました。例えば審査員の誰かが「これは○○デザイン賞で選ばれたものと似ている」と話しても、確認のしようもなかったのです。70人もいる審査員達も世界的拡がりや経年的なスパンの中で、総覧性をもって判断していける土壌に欠けていました。
そこでGマークの審査委員長を退いた際には、是非この重要なデータづくりの仕事を自分で始めてやろう、これを日本独自の情報資産化していこう、と考えておりました。
退任の2001年はちょうど21世紀のスタートの年にもあたり、タイミングもよいので、世界の代表的なグッドデザイン表彰制度の中の主要な選考作品を21世紀を期してアーカイビングし、データバンク化することを企図しました。そこで、そのための機関:株式会社ワールド・グッドデザイン(通称:WGD)を起こし、呼びかけましたら、結果、何と30数名もの方々に株主となっていただけたのでした。その根幹事業が「World Good Design(WGD)アーカイブス」の編纂です。


世界各国の代表的なデザイン賞一覧

このプロジェクトはデザイン界や教育界などにとっても意義深い筈で、滑り出しは確かに意気揚々でしたが、実態は地道な積み上げ作業の連続で、長い過程では関わった協力メンバー全員が必ずしも理念に共感し志を持って頑張り抜けない使命感の欠如、といった苦難の障壁もありました。しかし、スタート以来7年余、とかく先端部分のみ求める風潮の中、続けるには随分苦労も重ねて参りましたが、お陰様で冒頭の写真のように巻を重ね、稀有な資料集成として実ってきてくれました。

わが国においては、生活的・社会的にもデザインの重要性の認識がここ数年ますます高まり、経済産業省も新たに「感性価値創造イニシアティブ」なるプロジェクトを発足させました。これは日本の秀でた技術力や生産力、また伝統的な工芸資産などを活かしていくために、今後は優れたクリエーティブデザインを採り入れる感性力の醸成こそ大切という主意です。そして同省では2008年春から、この動きを国民運動化していくのだとの宣言がなされています。


「感性価値創造イニシアティブ」資料

他方、2007年春に新しく国立国会図書館の館長に就任された長尾真氏は、日本人が軽視しがちな、記録し続けることの重要性につき、「日本ではアーカイビングの意識がまだ低い」「歴史の流れの中でものごとを見、判断できる社会をつくることが望ましい」と警鐘を鳴らしておられます。


国立国会図書館長:長尾真氏の新聞記事

そのことによるのかどうか分かりませんが、WGDアーカイブスは国会図書館からもご注文をいただきました。発刊当初、私たちがWGDアーカイブスを同図書館に持参した際には、加除式(バインダー方式)の体裁ゆえこれは図書ではない、と断られた苦い経験を持つだけに、あらためて内容に価値を見い出していただいたことを示す実に嬉しい進展でした。
ともあれ、欧米各国はもちろん中国・韓国などが、アーカイビングの重要性を国家政策に据えていこうとしている中、わが国を「情報貧国」にしないことは、今後の国際間競争上も重要なテーマと言えます。

昨今では、インターネット普及のお陰で、物事を素早く詳細に知ることは実に容易になってきました。しかし情報収集上の課題として、それだけでは「1.全体を総体として識る 2.流れとして捉える 3 .相対比較の中で把握する 4.存在の本質を深耕していく」といった、総覧性を必要とする情報力の分野で問題が残るとの指摘がなされています。


WGDアーカイブスは使用時利便性を配慮し、バインダー形式を採用(表紙と本文頁)

そもそも「WGDアーカイブス」は、前述のごとく、21世紀を期して世界を代表する著名なグッドデザイン賞受賞作品を情報収集しデータバンク化し、教育や商品企画の糧として、また先端的かつ美的な生活水準の向上を目指す市民・生活者の役にも立てて頂きたいとの意図のもと、スタートしたプロジェクトです。
以来、約25の国際的に著名なデザイン表彰機関と交流を重ね、年に500点前後のグッドデザイン賞作品のアーカイブス化(和英文解説付)をこれまで推進してきました。これは世界的にも類のないことだと思います。

「WGDアーカイブス」の特色は、「世界の優秀デザイン&先端デザイン賞情報を網羅する」ことに主眼を置き、情報の索引性を重視した素情報の提供・蓄積に徹しているという点です。決して各賞や受賞作品の質的探求を精度高く行おうとはしておりません。むしろその部分は最小限に留めていると申し上げた方がよいでしょう。
たとえばヨーロッパの贈賞機関の中には、新しい賞が発表されると前のデータを消し去っていく所もありますので、本プロジェクトは年月を経れば経るほど、アーカイブスとしての価値を増していくものと考えております。

私たちは、グッドデザインに関わる情報を経年的に眺めたり各賞各部門の比較対照をしていただくことで、多くの市民・生活者たちの「感性民度」を上げ、「美的生活水準」を向上させ、ひいては魅力度や文化度の高い商品や産業を生み出すことに貢献できれば、それが結果として、生活美や社会美を採り入れた文化度の高い国を生み出していくことになる、との仮説のもと、《WGDアーカイブス》を少しでも多くの方々に活用していただきたいと考えています。

述べて参りましたような私たちの理想具現化への嬉しい応援事例がありますので、それを是非ご紹介させて下さい。


エヒメデザイン協会HP

「エヒメデザイン協会」は、地方のデザイン愛好活動としては実に創造的かつ活性化した活動をしている組織ですが、この団体の平松以久子さんたちが先頭に立ち、《WGDアーカイブス》を公立図書館の蔵書として購入してもらうよう署名運動を起こしてくださいました。結果、2000人以上もの署名が集まり、見事、松山市立図書館への収蔵が可能となりました。こうした文化支援運動には本当に感謝々々で、頭の下がる思いです。

少子高齢化時代を迎え、これからのわが国は、地方が産業的な面だけではなく、文化的にも自立していかなければならない時代になってきております。それも地域の閉鎖性の中での自立ではなく、世界の最新情報にも感性をオープンにさせながらの個性化が求められているのだと言えます。

江戸時代のわが国は、それぞれの地域が独自の個性と文化を有した、当時の水準としては世界的な文化大国でした。同時に、明治の近代国家へとスムースに移行していけたのは、この国の指導者や国民が世界の情報をバランス良く採り入れる平衡感覚や判断力に秀でていた結果と言えるでしょう。この事実は、量的拡大ではない目標を新たに設定しなければならないこれからのわが国にとって、素晴らしい指標と言えるのではないでしょうか。

「WGDアーカイブス」ご案内



投稿者 Nakanishi : 2008年06月20日 17:42