中西元男 実験人生
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明けましておめでとうございます。

2007 / 1 / 1

穏やかな年明けをお慶び申し上げます。
皆さまも良き新年をお迎えのことと思います。
どうか素晴らしい一年となりますように。


既にお送りさせて頂いた方には申し訳ないのですが、新年は「2007年が素晴らしい年でありますように」という、私共PAOSグループからのご挨拶状で始めさせて頂きます。


いつものことではありますが、私はこのように大変硬派かつ広汎なデザイン論で一年を始めることにしております。わが国のデザイン界の問題点の一つは「デザイン解説はあってもデザイン評論がない」というところにあるとも考えておりますので、自身の立場確認も含めての行為でもあります。そして、その時々の自らの所感を記録に残していくことも大いに意識しております。


もしお読みいただけるならば幸甚です。


※新年のご挨拶状

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2007年が素晴らしい年でありますように


年の変わり目に新たなる展望を持とうと、原点返りを試みてみました。


「来たるべき新時代が求めているデザイン教育は、決して技術偏重のそれではなく、造形研究を基盤として出発し、物と人との関係から人と人との関係まで社会をディレクトしていく新しい分野を開拓し、広汎かつ遠大な文化形成のための指導者を創り出すことを目的としている」−これは今から45年前(1962年)の学生時代に著した「早稲田大学デザイン学部設置への試案」の中の拙文です。時間は掛かりましたが、近年ようやくこうした内容の議論が俎上に載り始めたことを喜んでおります。


私共PAOSの事業も、上記発想の具現化プロセスで多くのクライアントに恵まれ続け、感謝に堪えません。


デザインは進歩したのか退歩しているのか?


昨今は、デザインというビジネスが進歩・停滞・退歩のどこにあるのかよく判りません。一説にはデザインビジネスの市場規模は10年で4倍に成長すると言われ、デザイン振興の国策化や、マーケティング・経営学を採り入れた修士課程の創設が世界的な傾向になりつつあります。わが国でも新デザイン商品が売り場の顔になったり、市場に衝撃を与える革新的な作家デザイナーも出たりし、それ自体は喜ばしいことです。が、こうした事例が少々増えても、所詮は「作家作品主義」のデザイン・アート的繁栄であり、決してデザインがインダストリー(産業)として成長・深耕したとは言えないと考えています。


世の中を変革していくにはモデル方式と嵩(かさ)上げ方式が典型的な手法ですが、優れた作家も多くは前者で、そのことによる変革や売上増は産業界全体から見ればやはり微々たるものでしょう。こうした表現中心主義も勿論有効ではありますが、本当にこの国を文化大国にして経済大国に成長させるためには、企業・行政・市民のデザイン心をデザインし、企業や社会に変革を起こし得るデザインインフラ構築へのアプローチが肝要です。企業において、1.商品を変える、 2.事業を変える、 3.企業存在や経営そのものを変える、諸デザインがあるとするならば、3を可能にするデザイン意識の改革や人材育成法の確立が図られねば、構造的な革新や根源療法は不可能であり、デザイン分野の飛躍的な領域拡大は成し得ないのです。こうしたことに早く気づき対処しない限り、経済力が世界2位でありながら、訪ねてみたい国の29位という日本の歪(いびつ)さや、対外支援をいくらしても一向に好かれる国になれないという根本課題など、解消できないでしょう。これは色・形・機能・性能のデザインではなく、ソフト・ハード両面からの人間的・社会的価値のデザインに関わる問題だからです。


私共実験会社PAOSでは、企業の経営レベルに遡って変革を起こす戦略デザインを30年余にわたり多く積み重ねてきましたので、「見えるデザインの前の見えないデザイン」の重要性を実感しているのです。


改めてアイデンティティ・デザインの時代


PAOSという会社や私自身は、外では常に「CIの専門家」として紹介されます。その場合、みなさんがイメージされるのは大部分においてVI(ビジュアル・アイデンティティ=企業の視覚統合)に限られた範囲であって、中には「CI?いまだにそんな古い流行を追っているの」と考える方も少なくないのが現況です。CI本来の字義とは、企業自体の存立価値(アイデンティティ)を現在・将来ともに良くするということですから、アイデンティティの要らない会社など世の中には皆無の筈です。特に昨今のように右脳的価値の創出や美意識ある生活文化の向上が企業使命として求められる時代、そして、情報化社会への変革期においては、個人・企業・自治体・国家いずれも時流に合致した新しいアイデンティティ構築が求められます。そしてアイデンティティ・デザインは時代の必然であるにもかかわらず、その開発候補者に一番近い位置のデザイン関係者自身が、受注的・加工的・単発的発想に終始し飛躍に背を向け、自らがデザインビジネスを高次元へと発展させるチャンスの阻害者なっている実情は理解に苦しむところです。また、知的美的経営や情報価値の創出という従来は無かった観点から分析してみると、企業自身が多くの経営資源を埋没させてしまっていることも解ってきます。


先年惜しくも鬼籍に入られたわが国を代表する世界的デザイナー田中一光先生から、「デザインをデザイナーや部門長レベルに留めるのではなく、経営者自身が最も真剣に取り組まねばならない重要テーマに引き上げたことが中西さんの功績」とお褒めを頂いたことがありました。確かに私の実務経験から考えると、「拡デザイン発想」は不振企業を蘇業させ、経営者自身に時代の先を見透す力を与えるパワーを持つと確信しています。またそれを証明する実績資料も沢山蓄積してきました。今や「知的美的経営」は、明らかに物的・技術的・人的・財務的経営などより、企業に強力な変革をもたらす効用を持ちうると考えています。


人創りこそ大切と真剣に考え始めた


プロジェクトで成果が得られたクライアントの仕事を振り返ってみましても、明らかに「形や表現のデザイン」の前に「理念・哲学、そして仕組みや目標のデザイン」こそ重要であると考えます。そうしたこれまでの裏付け事例がいくつもあるため、講座を持っている早稲田大学六本木ヒルズアーク都市塾では、知的美的経営を理解し具現化できる「人創り」の問題に、より強い使命感を持ち携わろうとしています。


実験的な講義を始めた早稲田大学では、全10学部から希望し選抜された100余人の学生に対するオープン講座で、「読み書き算盤(そろばん)、そしてデザイン」なる趣旨のもと、生活やビジネスのインフラとしてのデザインの効用や大切さについて話をしています。アーク都市塾では「アイデンティティ戦略プログラム構築」との講座名で、日本をテーマに美意識や独自文化を中心としたアイデンティティ構築模索の問題を深耕してみようと試みております。受講生の中には想像以上に熱心な人もいますが、彼等の殆どはいわゆるデザインの専門家ではありません。そして私自身も狭義の職能デザイナーではなくデザイニスト(拡デザイン主義者)ですから、自らの作品説明に終始しない刺激・触発型講義を心掛けています。こうした講座の受講者の中から、たとえ一人でも二人でも、将来デザインを有効活用して時代の変革者となる人物が誕生してくれることを願って止みません。日本ほど歴史的に洋の東西を問わず先端文化を受け入れ、今日のようなボーダレス文化を築き上げた国は無いわけですから、秀でたモノづくり力を活かす戦略デザインの哲学と手法の開発にこそ注力し、世界の範たるべきと考えているのです。



PAOS & ワールド・グッドデザイン 代表

早稲田大学 広報室 参与
戦略デザイン研究所 客員教授

中西元男




投稿者 Nakanishi : 2007年01月01日 00:00