中西元男 実験人生
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21世紀のデザインの指標展望

2006 / 12 /16

もともとこの原稿は東京デザイナー学院学友会20周年にあたっての記念誌(加速するデザイナーとアーチスト:グラフィック社刊)に依頼を受けて寄稿した拙稿に加筆したものです。


学友会長の橋本健さんは彼がGマークを受賞されたのをご縁で知り合いました。常に前向きでポジティブに仕事をされる彼の姿勢が好きで、この度も寄稿と講演という形で同会にご協力させて頂きました。


本稿は内容的に、私の現在の見解の一面を真面目にまとめたものですので、ちょっとお固いのですがご笑覧下さい。


※記念講演会



一度完成したシステムは内部からは変えられない

ここ10年間に世界のデザイン市場のサイズは約4倍に拡大するとの説がある。事実、韓国やスウェーデン等は国家政策として積極的に力を入れ、将来のデザイン大国を目指している。


わが国でも、経済産業省がここ2〜3年「デザイン&ビジネスフォーラム」や「高度デザイン人材育成プログラム」などの諸策を推進しつつある。ただ、歴史的な価値の転換というか、産業的なデザインの価値変革は、多分、従来のデザイン教育や既存のシステムの延長上では不可能だろう。それは一般にそれに関わりつくり上げたひとびとでは本当の変革はできないというこれまでの事実や、良くできたシステムが使いものにならなくなった時の改革者はほとんど組織ではなく個人であるという歴史がそれを証明している。


英語に「variation (ヴァリエーション)」と「change (チェンジ)」という言葉があり、どちらも変化に違いはないのだが、前者は一本の木に別の枝葉が生えてくる変化であり、後者は全く別のもう一本の木を植え従来には無かった新しい価値の創造につとめる変革を意味する。JFKの大統領選挙の演説でも有名だ。


つまり、いま起こさねばならぬデザイン変革とは、いわゆる従来型美術学校教育の延長上に存在するものではなく、全く別分野からの価値体系やパラダイム変革によって生まれてくるそれだろうといえる。つまりこうした変革には当然それに携わる人間に然るべき歴史観と責任感を要請している。大きくはわが国の将来の文化や産業の歩みに関わる問題といえるからだ。


時代の求めにデザイナーはついていけるか
現在の世の中はIT革命とか成熟社会化と呼ばれ、明らかに激変の渦中にある。近代・現代デザインが産業革命に端を発し大量生産・大量供給を前提とした工業化社会型の価値体系の中に誕生し育ってきたものであるのに対し、情報化社会型・高度情報通信社会型の第二次産業革命は、かなり異質と捉えるべきであろう。


それを第一次以上の革命と説明する人もいるが、われわれは今その第二次産業革命の奔流のまっただ中に置かれているから、未だ正しい判断や評価が出来る状況ではない。ただ、ユニバーサルデザインやエコロジーデザインといった現代人が避けては通れないデザインの主流分野を考えてみるだけでも、それが色・形・模様といった表現教育中心の従来型デザイン学校の範疇を超えてしまっていることはもはや疑う余地は無いだろう。


社会がデザインに求めるものは、既に旧デザイナーの仕事領域を完全に凌駕し先へと進みつつあると言える。従って私は、デザイナーといった職能人を越え、その人達をも包含した理念オリエンティッドな「デザイニスト」の時代が、やってきたのだと認識している。


1998年、わが国の Gマーク(グッドデザイン賞表彰)制度が主催者:通商産業省の手を離れ民営化される際、再興を支援して欲しいと頼まれ3年間にわたって委員長をお引き受けした。


その時に立てた方針が《Good Design is Good Business》であり、理念が「Gマークを基軸にわが国のデザインインフラ(社会基盤)を構築する」であった。以来8年、当時存亡の危機にあったGマークも今日では見事に隆盛を謳歌している。
それは結構なことだが、《Good Design is Good Business》が具現化したかというと、いまだに道は遠い。かつて「Gマークスタイル」などと称されGマーク賞商品がまるでモダーンデザインの一つの流派のように言われた時代のことを思い返すと、今日では明らかに形作り優先の《Good Forms》からは抜け出し、《Good Works》位までは至ったと言えるだろう。


昨今雑誌等に盛んに取り上げられる諸事例を見ても、次々とスターデザイナーの作品が紹介され、明らかにデザインの作品競争華やかなりし時代に突入してきている。だがデザインが市場創造や事業創造を行った《Good Business》と呼べる程の力は、残念ながらほとんどない。デザインが先導して新しい事業ジャンルを創出しているなどと言える状況ではなく、依然としてデザインは日本が誇るモノづくり技術に牽引された受注型産業もしくはその後追い作業を行っているに過ぎない。要は作家作品主義の進歩形の域を抜け出てはいない。


私がGマークの委員長をお引き受けした際に新設した分野に「新領域デザイン」がある。これは脱工業化社会として世の中が進み、各分野の境界がインターディシプリナリー(業際)化してきている状況の中で、少しでも多くの周辺境界領域をデザインジャンル側に取り込んでおきたいと考えスタートさせた分野であり、当初は、IT産業に関わる分野・バイオケミストリーに関わる分野・伝統技術をデザインで蘇生させた分野を基本3軸に据えた。


最近ではこうした新領域もすっかり定着し、ここからグランプリ(大賞)作品まで登場してきているのは喜ばしい。だが本ジャンルの本当のねらいは、デザインが新しい事業分野そのものをデザイン創出していける力を発揮できることこそ望まれる所であることを忘れてはならない。


総じて言うならば、今後デザインと言うジャンルは拡がり続け、あらゆる人工物や産業の共通公分母化を支える主流となっていくことは間違いなかろう。21世紀が人間の時代+文化の時代と言われる所以であり、これぞ未来デザインを語る大きな指標といえる。要はわが国デザイン界がこうしたデザインの国際的な進歩の価値創造者となれるのか追従者で終わるのかの問題であろう。



投稿者 Nakanishi : 2006年12月16日 19:07