中西元男 実験人生
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COMMENT

« アートのパワーはすごい、越後妻有「大地の芸術祭」メイン21世紀のデザインの指標展望 »

「刺激触発の教育」は可能だろうか

2006 / 11 /13


※早稲田大学講義風景


この秋から早稲田大学で実験的な教育プログラムを開始してみました。


これはオープン教育講座で、学部・学年を問わず受講できるというルールのもと、「ブランド&デザイン・マネジメント」なるタイトルを付けています。が、講座名以上に重要なのは授業方針だと考えています。


昨年の早稲田大学ビジネススクールでの講座(受講生の平均年齢は30歳代半ば)に比べると実に初々しい人たちで、当初から全学部(10学部)からの受講希望があり、学年も1〜5年生とバラエティに富んでいます。受講生は一応100名に限定させて貰い、多くの応募者の中から受講希望理由の記述等を参考に広報室にお手伝いいただき選考しました。


この講義では2軸の主要方針を定めています。


ひとつは「読み・書き・算盤 (そろばん) 、そしてデザイン」という授業指針です。「読み書き算盤」は江戸の寺子屋時代からの教育方針ですが、これによりわが国のリテラシー(識字力)は明治維新の頃に既に国民全体の8割以上と、世界的に見ても驚異的な水準に達していたと言われています。その成果が維新の義務教育:尋常小学校へと繋がり、わが国の近代化と驚異的なその後の発展に貢献したと考えています。


因みに尋常小学校というネーミングも実に素晴らしい理念的命名であったと感心させられます。「尋常」、つまり常なるを尋ぬとは義務教育の主目的が人が生活していく上で必要とする常識を身につけさせるというところにあることを意味しているからです。


「読み・書き・算盤」を今風に読み解くと、「読む」は情報収集や修得であり、「書き」は情報発信や伝達、算盤は計算や銭勘定が合うということで、いずれも生活し仕事をしていく上での必須条件と考えてよいでしょう。そして、現代ではこれに美意識や文化意識を加えていくことが重要と考えるのが中西流です。安倍総理は「美しい国日本」との所信表明をされましたが、これは私が40数年前から永く主張し続けてきたところです。いくら経済大国になったとしても、尊敬に値する文化大国でもあることが重要との考えを持つからです。「デザイン」とは、そうした「美的インフラ」を身につけることの大切さを意図した指針です。


今回の講義におけるもうひとつの重要な指針は「刺激触発型教育」というものであり、「教え覚えさせる教育」の対極にある教育哲学です。私自身がこれまで受けてきた幼稚園から大学院までの学習体験を通じ感じ取ってきたところでは、このプロセスで自分の人生におけるエポックメーキングな教育上の出来事の殆どは、記憶型成果としてのそれではなく、生き方を変えさせるような先生の衝撃的なひと言などであり、それらの方が遙かに大きな影響力を己の人生に与えてきたとの事実を自認しているからです。影響を受けるのは別に先生という立場の人に限らず、時には自閉症の子供の一事への集中力といった、いわゆる社会的にはマイノリティと見なされている存在の人物の所作から、人の能力とは一体何ぞやということについて強烈に教えられたこともあります。


その人の人生を革命的に形成していく要因は、必ずしも積み上げ型のなだらかな成長プロセスにあるのではなく、むしろ、思いもかけない衝撃的な事件事象にこそ多く依拠しているとするのはカタストロフィ(不連続学)の理論ですが、これは自身を振り返ってみてもかなりの確率で正しいと認識しています。


それ故、学生たちが自らのライフスケジュールを考えたりイノベーティブに進化させたりすることを可能とする講義がもし私にできるのであれば、それは私にとって教師冥利に尽きる使命であり満足であるとも考えているのです。



※熱が入ると話があちこちに飛ぶのでなかなかその日の講義内容が消化できない。


アメリカのインフォメーション・アーキテクトとして一世を風靡したリチャード・ソール・ワーマンに、「日本人は、改良改善の民族としては優秀だが、創造性に富んだ発明発見型の国民としてはどうも不十分と思える。それは何故だと思うか?」との質問を発した時、彼の答は実に簡単明瞭でした。「この国の教育は、良い答えを出した学生に良い点数を与える。これを、いい質問をする学生に良い評価を与えるように方針転換すれば、もともと日本人は優秀なのだから、すぐに発明発見型人材育成の成果は現れるよ」と。記憶型ではいくら良い答を出してもそれ自体はもともと教師の中に入っていたものの繰り返しであり、創造的成果や増幅は生まれにくい。むしろ、良い質問を出すことによってこそ、それまでに自分の知らなかった知識力や考えの幅は拡がるし、それを周りで聞いている人たちにも新鮮な知識の増幅が期待できる、というのが彼の考えであり、この単純な発想転換に強烈な刺激と印象を受けました。


こうした自身の経験に基づいても、私の講座は刺激触発を主軸としたものでありたいと考えており、これを教育方針の核に据えています。そして、100人の中から1人2人でも、創造的価値を生み出してくれればと願っています。



投稿者 Nakanishi : 2006年11月13日 19:22