中西元男 実験人生
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トップと直接話をしながらデザインをする。

2006 / 8 /24

亀倉雄策先生についてもう一文記してみたい。


先生は座談の名手と言われた。確かにいろいろなパーティに出席されると必ずと言っていいほど挨拶を求められ、そのたびに実にユーモアや皮肉に富みながらも実態を穿つ内容の話をされた。会場の人たちの爆笑を誘いつつ、「ナルホド!」と肯んぜざるを得ない実あるスピーチであった。


私も何度か伺ったが、「グラフィックデザイナーで大企業のトップとまともに話ができるのは、私と田中一光がネクタイをしめた時だけだよ」とのたとえ話があった。確かに、大企業のトップ層と対等に話ができるデザイナーは多くはないだろう。


かつてある自治体の知事が「これからはデザインの時代」との話に共感し、具現化したいとの思いで地元の著名なデザイナーを紹介され話を聞いたところ、結局、自分の作品説明以外はほとんど内容が無くがっかりした、との話を耳にしたことがある。今のデザイン界で企業や行政のトップにデザインの使命や活かし方について話のできる人、そして賛同を得られる人は、果たしてどれ程いるのであろうか。これは重要なことである。

「現代はデザインの時代」などと言われて、多くの企業や行政が関心を持ち始めてくれている状況は実にありがたい。しかし、その中で「知的美的経営としてのデザイン」といったグランドデザインについての話ができているデザイン関係者が存在するのだろうか。


80年代にはよく見られた大企業のトップが参加するCIやデザインに関わるシンポジウムなどは、最近ではほとんど見られなくなってしまった。世の中一見デザインブームのように見えながら、単に「デザイン作品ブーム」に過ぎないのではなかろうか。


経済産業省などもデザインの重要性を認識し次々と諸プログラムを設けており、大企業のトップが顔を出す会合も徐々に増えてきてはいる。しかしそうしたビッグチャンスを前に、デザイン界は一体どれほど創造的な成果や世の中をリードする役割を果たせているだろうか。


本当はこうした話はお役所からのお声掛かりといった上から下への発想でデザイン界が処理型の対応をすべき事象ではなく、むしろデザイン界自らが主導的に働きかけて成果を上げ、他業界の多くのトップの理解や賛同を得ていく流れこそ重要だと私には思える。デザインの世界に身を置く多くの人たちは、どのようにこの問題を捉えているのであろうか。


こうしたことを考えると、デザイン界にとっても無くてはならない重要な経営トップでもあった山中カン氏(伊勢丹専務→松屋社長・会長→東武百貨店社長・会長)のことを思い起こさざるを得ない。山中さんは亡くなられて7年にもなるが、指導された部下の中からその後多くの小売業のリーダーを輩出し、今でも「ミスター百貨店」の尊称をもって呼ばれている。


かつて川崎製鉄(現JFE)がCIプロジェクトを導入したいとの構想を描き私共でお手伝いをしていた際、ともかくお堅い鉄鋼メーカーの事ゆえ担当者は役員会の賛同を得るのに苦労していた。そのことを山中さんに話したところ、「それじゃあ企業経営にとってデザインがどれほど重要なものか話をしに行ってあげよう」と、川鉄の常務会メンバーを前に持論を語ってくださり、プロジェクトが一気にうまく運んだということがあった。


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川鉄ブランドロゴ


その後、川崎製鉄の社長になられた濤崎(とうさき)忍社長は、伊藤忠商事がCIプロジェクトを検討し始めた際、同社の代表取締役会メンバー30人程のトップたち相手に、全く同様に自らの経験に基づく「経営にとってデザインやCIがいかに重要か」の話をしてくださった。その成果として生まれたのが今日の「ITOCHU」なる世界統一ブランドであり、8カ国語で創られ運用されている企業理念である。


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地球企業を象徴するロゴマーク


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国際総合企業伊藤忠の8ヵ国語理念


亀倉先生の言を引くまでもなく、デザイン界の人たちは企業トップに理解され採用されるデザイン理論や手法を身につけて説得し、それに賛同し行動してくれる企業トップを今こそ生み出すべき時代だと思える。そうした自覚と使命感、そして行動力のある視野の広いデザイン関係者は今どこにいるのだろうか?



投稿者 Nakanishi : 2006年08月24日 20:05