中西元男 実験人生
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« イタリア紀行3 (レッチェ)メイン桑沢デザイン・オブ・ザ・イヤー賞受賞 »

ミラノ・サローネ2006

2006 / 5 / 2


3年ぶりにミラノ・サローネに出かけてみた。


ミラノ・サローネについては既に情報も沢山流されていることと、余りにも出展点数が多いゆえ、ここでは簡単に私なりのまとめと切り取りといった独断と偏見の選択結果でご覧いただきたい。


今年出かけた理由は、新しくなった主会場を見てみたいというのも一つだった。確かに、新設会場は整然として機能化されたことはもちろん、建築的にもイタリアらしい新しいデザインに満ちていた。地下鉄の新線もここまで延長されたそうだが、それにしても新会場の東京ドーム約11個分という広さは並大抵ではないサイズである。


お蔭さまでここしばらくこんなに歩いたことはなかったろうという程によく歩き回り、歩けば夜もぐっすり熟睡できて、運動が健康にいいことを改めて確認した。が、東京に戻って2週間も経ってしまうとあっという間に元の不健康生活に逆戻りで、今では何だかミラノが随分昔の話のように思えてしまうから不思議だ。


新展示会場は大きさだけでなく建築デザインとしてもなかなか斬新で、それは写真でご覧頂きたい。




※随所に置かれたサインはご覧のような大きさ。



※導入路(地下鉄駅を出てすぐ)



※トラスの屋根がけが美しい。






いつものことだが、家具インテリアといっても、それはクラシックな豪華版貴族趣味のものから低価格帯のものまで相当の広がりで展示されているため、それらを全て見るなどという勇気も元気も私にはとても無い。そこで、いつもの通りミラノ在住のデザイナー天野忠夫さんのアドバイスを仰ぎ、まずモダーンな、いわゆるよくデザイン誌などでも名前の出てくるデザイナーやブランドのものを中心に見て回った。






※いつも感心するがサローネの展示はスクリーンの使い方が実にうまいものが多い。




※日本でも有名なnendoの出世作スクリーン。



※一見キッチュ風だがイヤらしさが全くない。



イッセイミヤケのA-POCも一部展示されていた。












※梅田正徳さんの花の椅子(手前)も今や歴史的名作となり、edra社の顔として置かれていた。






サローネでは年度ごとにキッチンと照明器具を交互にテーマ展示しており、今年はキッチンの年にあたっていたのでそちらの方も見て回ったが、続きで展示されていたトイレ・バスといったいわゆる水周り空間全体を通じて、家具以上に意欲的な多くの試みに「こんなに凄い台所など一生かかっても使うことなどないだろうな」と思いながらもなかなか面白かった。




※キッチンはアイランド型で素晴らしいものが圧倒的に多かった。








※日本のシャワートイレの便座にもこうしたユーモアが取り入れられないか?要は「生活を楽しむ」という精神。








例年のことだが、SATELLITE(サテリテ)という若手のデザイナーたちの実験場というか登竜門のような場がメイン会場に併設されており、ここでのトライアルの数々がいつにも増して私には刺激的で面白かった。


ここは世界各国の若手デザイナーたちが30〜40倍というアイデア競争に勝ち抜き展示スペースを確保する挑戦場のような場所だが、今年は実にアイデアフルな作品が多く、むしろ主会場以上にエキサイティングであった。こうしたプレゼンテーションの中から認められたりスポンサーがついたりして一流デザイナーへの階段を上って行く人も稀ではない。前出のnendoもその一例。

















サローネの展示の面白さは、個々のブランド商品はもちろんのことディスプレイやプレゼンテーションの巧みさ、カタログやそれを入れる袋のデザインの競い合いなども、実に触発されるところが多く興味をそそられる。加えて新作家具の多くは試作品であるが、そうしたモデルとしての家具類を本物以上に本物らしく造り上げてしまうイタリアの職人芸にも凄いものがある。


これは皮職人や鉄細工職人等々が、小学校に上がる前から親兄弟に手ほどきを受け一流の専門職人としての技を身につけていく独特の伝統によっているところが多く、そうした技術的支えがあってこその成果が素晴らしい。加えて、イタリア独自の販売の仕組みが確立されているため、たとえ小さな家具工房であってもサローネで顧客がつくと世界中に販路が作られていく伝統も羨ましい。


近年ミラノ・サローネでは、とみに市内のいろいろな施設を使って展示する参加者が多くなり、ここでは主会場のブース展示とは異なったそれぞれの環境を活かしたエンターテイメントとしての面白さが伺える。ただ3年前と比べると、量は増えたが、質はダウンした感じ。


中でも今年はわが国のGマーク50周年記念展をミラノ・トリエンナーレの会場を使って催しており、この記念すべき展示を観ることもミラノに出かけた主目的の一つであった。総じて感想を述べるならば、今日の他の日本企業の展示にも共通して言えることだが、ディスプレイ等が少し生真面目過ぎて、ショウイングというよりは商品サンプル展示のような趣が強く、一体どこまで感じさせる力を持ちながら理解されたのだろうか?といった感が残った。ただ、来訪者は山のように多く、大きな盛り上がりを見せていたことは間違いない。











※かつて私が審査委員長時代の大賞作品。






こうした市内に点在するショーもいくつか見て廻ったが、そうした中での圧巻は吉岡徳仁氏デザインのTOYOTA Lexusであった。私は全ての展示場を観たわけではないので絶対とは言い難いが、彼による素材の活かし方、光や映像の活かし方、アプローチから主展示に至るドラマティックな会場構成等々、その見事さは現場体験の無い人には、なかなか文字や写真では伝え尽くせないものがあるが、視覚だけではなく聴覚・触覚・嗅覚にまで訴えかけ来場者を引きずり込んでいくドラマづくりは感服以外のなにものでもない。そのことが、市内の展示会場としては少しはずれた場所ではあったが圧倒的な人数を集めたようだ。


私も最初はここにご覧いただくようなスチール写真を撮ったのだが、これではとても吉岡デザインの真の姿は撮り切れないと感じ、翌日には改めて再びハイビジョンのVIDEOカメラを持って撮り直しに出かけた。ここでそれをご覧いいただけないのが残念だ。


ただ、こうした今回の吉岡デザインは、3年前の樹脂の白砂を敷き詰めたようなdriade (ドリアデ) における展示の強烈な印象がより増幅された感が強く、会場を訪れ次々と質問を投げかけるインタビュアーたちの様子を見ていても、まさに世界に誇れるデザイナーが日本から誕生したとの思いを抱いた。














今回のイタリアツアーには、わがオフィスの入社2年目の若いデザイナーを勉強のために同道させたが、帰国して彼女が述べた感想は「日本がこんなに汚い国だったとは思わなかった」のひと言だった。これは何も建物や街が汚いとか不清潔であるということではなく、たとえばイタリアの子供たちが着ている日常的な洋服の美しさや、街の小さなショーウィンドウのカラー配色のセンスの良さといったところに、とんでもない彼我の大きな差があることに気づき、デザイナーとしてショックを受けた結果のひと言であった。


この感性的文化力の差はわが国デザイン界や市民の美意識の問題として、今後への大きな課題と言えるだろう。



投稿者 Nakanishi : 2006年05月02日 20:55