同時に「顧客とは?」と松屋の人たちに問いかけてみると「それは、買い物をしてくれた人」という答えが返ってきた。つまり店には来ても買い物をしなかった人は客ではないとの論だ。事実、夏の暑い日に買い物もしないで店の中を通過するだけの人にだって冷房費は100円以上もかかるから無駄な出費だなどとの発言も見られた。
私たちはこの発想を根本的に変える位相転換がなされない限り、松屋は蘇らないと考えた。つまり、百貨店ビジネスの原点はフェーストゥフェースの対面販売であり、都心のビジネスの基本は賑わいにあるのだから、購買以上に松屋の店内に人が溢れ活気づくことこそ商売繁盛の始まりであるべきだと考えた。それが「集客第一主義」発想の原点である。
集客第一主義の基本とするところは、来店客がたとえ買い物をしようがしまいが客として大切にされるところにある。つまり、松屋に勤める全ての人が、今、自分の前に立っている人が次にもう一度来店したいと思い、その際には自分だけではなく親兄弟や友人を伴って訪れたいと考えさせられるような対面サービス行動がとられていることを従業員全員に要求したのである。
これは松屋再建のための諸策のほんの一例だが、こうした結果が長く低迷していた百貨店業に再興の火を灯し、銀座の街の復権という今日に続く道を開いていくことになるのである。いずれも山中社長の経営的好判断の成果に他ならない。
今、ミスター百貨店:山中氏が生きておられたら果たして何をなさったろうか?
※朝日新聞に出された「銀座で一番好きな店俄然ナンバーワン」になった松屋銀座
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